英語とドイツ語。女の子にモテたいときに使う言葉

僕は昔、ドイツに2年ほど住んでいたことがあって、当時働かせてもらっていた日本の食料品店では、ドイツ人から掛かってきた電話に出なきゃいけなかったし、お客さんもほぼドイツ人ばかりなので、仕事で使うドイツ語に関しては必要最低限は覚えた。
ただ、同僚は皆日本人である。
自分より体の大きいドイツ人女性と付き合える気もせず、ただただ僕はドイツで本を読んで何度も同じ映画を観て、同僚や友人と酒を飲み、なんやかんやで2年が過ぎた。
結果、僕のドイツ語能力は、甚だ疑わしいレベルで止まってしまった。
買い物や旅行、道を訊いたり、レストランでの注文くらいなら多分なんとかなるけど、ドイツで働けるほどのものはまず無いし、そもそも過去の話をするときに、口語と文章語での違いがわからないので、多分それを日本語に翻訳したら無茶苦茶なことになってるんだろうなと思う。
そんで、日本に帰ってきてから外国語の話になったりしたとき、「山田さんは海外にいたことあるから英語出来るんでしょ?」とやはり訊かれる。
僕は「出来ない」と答える。
ドイツ語でさえ危ういのに、英語なんかもう多分赤ちゃん言葉レベルだ。
でも、なんともお恥ずかしい話、可愛い子ちゃんに同じ質問をされると、僕は少しでも自分のポイントを稼いで、可愛い子ちゃんの匂いとかをスンスンと嗅ぎたい欲が出て、「事実は事実だけど、そんな言い方するんだこいつ」と後で自分でも恥ずかしくなるような言い回しをする、至極卑怯な男に成り下がってしまっている。
つまりそれはこうだ。
「山田さんって海外に居たことがあるなら、英語話せるんですね、凄いなぁ」
その瞬間が来ると、僕は(来た来た来たー!)とそれまでの「お喋りな小太りおじさん」の表情を慌ててさっと消し、その子の方を敢えて見ずに横顔を見せ、ちょっとだけ目を細めながら視線を上にずらしてから
いや、全然そんなことないよ。まぁ、でも、そうだなぁ。英語よりは、うーん、まだドイツ語の方が得意かなっ」 
なんて小憎たらしく、嫌らしい言い方なんだろう。
そしてセリフの最後の「っ」の存在が極めて腹立たしい。
いや確かに事実は事実だ。僕は英語よりはまだドイツ語に触れていた時間が長いので、ドイツ語圏に行ったときは、あまり構えずに話せる。
全然話せてなくても話せる感じで話せる。
ただ、この「ドイツ語の方が得意かなっ発言」は暗に、「英語だけじゃなく、ドイツ語も話せるけどね」みたいなアピールをも兼ね備えた、とても恥ずかしいモテたい発言なのだ。
だから僕は、なるべくなら英語圏、ドイツ語圏へは女の子と一緒に行きたくない。
僕のしょっぱい英語やドイツ語が全く通じず、「違う違う!それよ、そーれ!いやだから、いや、ちょっ、違う違う違う、左左左!そ  れ  のぉ、右!そうそう!それをツーね、ツー! サンキューサンキュー」とか言ってあたふたした姿を見られたりしたら、(おぃおぃ、こいつ、盛大に盛ってやがったな。この小太り)とか思われて、旅行初日から僕の点数は減りに減り、旅行から帰ってきたときにはもう、「ただのお喋りな小太りおじさん」へと優雅に舞い戻り、以後連絡が来なくなるパターンになるのだきっと。
あぁ、モテたいな。モテたいぜこんちきしょう。
どうやったら可愛い子ちゃんにモテるんだ、ったくよぉ。
はぁ…、おぉ神よ。
僕はこれから、どこに向かっていけば良いのでしょうか。
 
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アリノハネ (arinohane)

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